2008年04月04日

テグレトール(Tegretol)について

●テグレトール(Tegretol)
一般名:カルバマゼピン(carbamazepine)

  抗てんかん薬として多用され、部分発作、精神運動発作に対する第1選択。
  てんかん、躁状態、統合失調症の興奮状態に適用。
  200〜600mg/日(1〜3回に分けて)



 テグレトールも、抗てんかん薬および感情調整薬として併用される薬物のうち、代表的なものです。抗てんかん薬としては、局在関連てんかんの第1選択薬になります。
 では、感情調整薬としては、どのような特徴があるのでしょうか。


●怒りや感情の波を抑える薬

 イライラが収まる。目が覚めて眠気がなくなる。服用して1年で、別人のように怒りっぽさがなくなった。診断は「混合状態を呈する双極・型障害」。たぶん脳波異常とかあると思う。(通りすがり75号 さん)

 気分変調症との診断で、1日100mgを粉末で、感情の波を抑えるために使用しました。
 使用した感じは、たしかに大きな気分の波は収まりましたが、低空飛行といいますか、「なんだか生きていくのが物悲しいけれど、別につらくはない」といった、やや落ち込んだ状態で安定しました。副作用は特に感じませんでした。(青井 さん)


 テグレトールが怒りや感情の波を抑える薬であるというのは、精神科医の共通見解でもあります。それもその効果は、かなり強力なものです。
 衝動的・暴力的で自傷他害行動が繰り返され、他のいかなる薬物でも反応しなかったケースでも、テグレトールだけはその状況を劇的に改善してしまうのを、私はこれまで何度も目にしています。そして不思議なことに、服用している患者さんは、その変化に対し無自覚であることが多いのです。
 先にデパケンの服用において、やはり怒りが抑制されるという話が出てきていましたが、同じように“怒りの抑制”と表現できても、どうやらそれらはかなり質が違うもののようなのです。
 デパケンの場合、服用者は自分の感情の変化に、かなり敏感であるケースが多いように思います。デパケン服用後に、「後で『これは怒るべきじゃないか』と気づくこともあります」と表現されていた方がいましたが、これなどは、それを象徴していると感じられます。
 しかし一般的に、テグレトール服用の場合は、服用前の状態について、振り返り、内省することがあまりありません(青井さんは少し違いますが)。それはあまりに服薬による変化が大きすぎるゆえに、服薬前後で体験に断絶があるせいではないでしょうか。それゆえに服薬後、性格自体が変化したかのように感じられることも少なくないのです。ところが逆に、服用前後の変化についてきわめて自覚が乏しいですから、服用することで仮に好ましい変化を生じていたとしても、すぐ服用をやめてしまい、またもとに戻ることが多いのです。これは、治療者にとってなかなか悩ましいことです。このように治療において、患者さん自身が自らの連続的変化を追えることは、とても重要なことです。
 これは例えば、統合失調症における幻覚・妄想などでも、当てはまることです。あまりに劇的な、あまりにマジカルな治療は、簡単に振り出しに戻ってしまうのです。


●「シーソー現象」

 子ども(小5)が部分てんかんで、テグレトールを服み始めてから、2年9ヵ月になります。発作は、全然でなくなりました。
 が、ここ3ヵ月ぐらい前から、異常なほど、イライラしたり、無気力になったりします。精神科に行くと、「シーソー現象」といって、発作が出なくなると、薬の副作用が強くなると言われました。でも、今日小児科の主治医に聞いたら、そんなことはないと言われました。いったいどっちが本当ですか?(まま さん)


 この「シーソー現象」は俗語で、正式な精神科の用語ではありません。ただこのような不可思議な事柄を表現するために、好んで用いる精神科の先生は、比較的多くいます。これは精神科の文化の中で、ある程度了解されていることですが、小児科の文化の中では容認されていないのでしょう。
 ところで、この異常なイライラと無気力、本当にテグレトールの副作用なのか、それともてんかんの症状の一部が顕在化してきたものなのか、にわかに判断しがたいと思います。経過がわからないので何ともいえませんが、その点については、精神科・小児科の両主治医と話し合われることが重要です。


 41歳男性です。テグレトールは、6年前まで抗てんかん薬としてではなく、安定薬として服用していました。でもなかなか効果が現れなかったので、その後はリーマスを服用しています。リチウム中毒を恐れる医師の中には、リーマスの代わりにテグレトール等の抗てんかん薬を使う方もいるようですね。(こうめい さん)

 テグレトールは、抗躁薬でしょうか? 以前、これで手足に発疹が出て、皮膚科に通いました。これを服んで太陽にあたると、発疹がでるのです。今は服んでいません。(ゆり子 さん)


 テグレトールは他に変えがたい作用があるため、私は時折使う必要を感じていますが、それにしても、たちの悪い副作用を有する薬物です。
 リーマスにも副作用があって、それはそれで別の注意を要しますが、私はこのテグレトールのほうがより副作用に注意すべきだと思っています。
 例えば、発疹。どのような薬にでもアレルギーが発生することがあって、その際、発疹が出ることはあるのですが、それにしても、テグレトールによる発疹だけは、その頻度が格段に違います。服用者のおよそ10人に1人の割合で出るというものです。そのため、テグレトールを処方したことがある精神科医ならたいてい、1度や2度の発疹の副作用については経験があるものです。
 その他にもいろいろな副作用があります。肝機能障害、意識障害、血球減少、スティーブンス=ジョンソン症候群(全身の粘膜組織に異常をきたす病気)など、ときとして重篤になり、生命に関わるものも少なくありません。すべて劇薬扱いの向精神薬ですが、これほどまでに重篤な副作用を高頻度に引き起こす薬は他にないといえます。まさに、劇薬中の劇薬。
 てんかん治療においては主役ともいえる薬物ですから、てんかん治療の専門家である兼本浩祐先生は、この薬物について、その益も害も知り尽くしておられます。その兼本先生をして「どれだけ処方経験を積んでも、怖い薬。細心の注意を要する」と言わしめた薬です。私たちも常に注意を払い続けなければなりません。


●血中濃度高すぎると、中毒に

 テグレトール服用時の個人的感想です。・てんかんの種類:右海馬の異常による部分てんかん+α、・体重:80kg、・テグレトール:200mg×5錠/日、・他の服用薬:フェノバール、マイスタンです。1回に2錠までなら少し眠気がするくらいで、仕事も十分できます。1回に3錠服用すると、眠気がひどくなり、仕事をするのがつらくなります。誤って、1回に4錠(正確には、1時間以内に4錠)服用したことがありました。このときは、眼震(?)と虚脱感、睡魔でフラフラして仕事になりませんでした。その他に、服用を続けると、額に小さなニキビのような発疹が出てきました(よく見ないと目立たない程度です)。(通りすがり さん)


 テグレトールもデパケン同様、血中濃度に注意を払いつつ、使用しなければならない薬です。この薬物もやはり、定期的に服用し、身体に溜めて効かせる薬です。治療域は、4〜8μg/mlとされています。この範囲を超えると中毒になります。通りすがりさんのこの使用の仕方はかなり危険です。1時間以内に4錠の服用といえば、あっという間に中毒域に達します。「眼震と虚脱感、睡魔でフラフラ」というのは、明らかに副作用です。
 通常、血中濃度を測る薬物というのは、かなり危険な薬物であると認識しておいたほうがいいかと思います。



あいち熊木クリニック(愛知県日進市竹の山<名古屋市名東区の隣です>)

熊木徹夫
posted by aikuma at 18:53| Comment(275) | TrackBack(2) | 日記